「一緒になろうな!!」
ふと思い出す記憶。それは中、高ともに一緒だった友達二人との約束。俺――雪村裕――は一緒にそのとき、友達二人と共に「おう」と答えた。その夢は“声優”。その頃アニメにはまっていた俺たちは、アニメの中で様々の声を出して演出する声優に憧れていたのだ。
高校を卒業してからは知らないが、あの二人は今どうしているのだろうか。目指していた声優になれたのだろうか。教材とかも買ってたからなれたんじゃないだろうか。俺はというと、夢を達成できなかった落ちこぼれた人間の一人。中学のころに教材が買ってほしくて、親に頼んだが、声優より勉強しなさい、という言葉で俺は俺なりに勉強をした。だが成績は上がらず、どんどん下がっていくばかりで、危うく私立の高校に入るところだった。
そこはなんとか努力で公立に入ったが、今思うと何故あんなにがんばったのだろうと思えてくる。結局教材は買ってもらえなかったしな。
自分の力でできるだけそれらしいことをやったり、友達に教えてもらったりしていたが、まったくもって役に立たなかったと見える。いったいなんだったんだろうな、あんときの夢は。
さて、今は冬。十二月が始まったばかりだ。
外はクリスマスシーズンで、木は光り、雪もパラパラと降るような季節となっている。そんな降る雪を社内の窓から見つめている。それが俺だ。
この会社には丁度熱い夏が終わった頃に入社した。だから、まだそんなたいそれた功績は残してない。ましてや、勉強も運動もままならなかった俺がここまでこれたのが奇跡だと思える。
ほかの社員はせわしくパソコンにかじりつき、カタカタとキーボードを打ち続けている。中には上司に駄目押しされたり、説教さているやつもいた。いつもの光景。つまらない。
「雪村、なんか部長が呼んでるぞ」
ふいに俺の後ろに現れたのは、俺と同時に入った社員、佐々木浩太だ。
「ん?部長がか。なんの用なんだ」
「わかんねぇけど、なんか結構真剣そうな顔してたぞ」
「それって怒ってたんじゃ……」
「いや、怒ってはいなかったような気がする。まぁ早くいかねぇと、部長、短気だからな」
笑い混じりにそういって、俺は部長がいる席を目指して歩き始めた。
「なんでしょうか」
部長はちょっと禿げていて、それでもって眼鏡、なんていうどこかにありそうな設定の人だ。その部長が今とても悩ましげな顔で俺を見ている。
「実は……」
カラッと部長席を立ち、俺の肩にポンと手を置いた。まさか……。
「君には今日をもって、この会社を辞めてもらう」
……。
言葉が出ない。まさかとは思ったが、本当に……リストラだなんて。
「な、なんでですか!?」
「実はうちの会社の商品が売れなくなって、給料もろくに払えないほどになった。だからコスト削減のために今社員を減らしているのだよ。だから、その社員を減らす中で、君が選ばれたのだよ」
これがなにか特別な選別なら俺も喜ぼう。だが、これは特別な選別じゃない。
「私が選ばれた理由は……?」
部長は答えにくそうな顔をしていたが、やがて意を決したかのようにこちらを向いた。
「役に立っていない社員だったからだ」
さっきもいったが、これは特別な選別じゃない。ただの差別だ。
こんなパターン、どこかの小説やマンガでしかないと思っていた。そしてこんな酷い言葉を言われるのも、小説やマンガだけだと思っていた。だが、現実はそうも甘くはなかったようだ。自分が思うより。
その後、俺は部長に別れの挨拶をすると、荷物をまとめて家に帰る準備と共に、会社を辞める準備を。
「おい、もう帰るのか?」
佐々木が聞いてくる。
「ああ、リストラされちゃったから。ハハ」
一瞬社内の空気が凍ったような気がした。冬の寒さ以上に寒くなったような気がした。
リストラ、と一言聞けば、みんなは自分もいつかなるんじゃないか、と不安を抱くものだろう。いや、もしかしたらそれは俺だけかもしれない。
佐々木の顔は驚愕していた。時が止まったように、佐々木はその場で立ち尽くしている。
「まあ、お前もリストラされないように気をつけろよ」
なるべく元気な声で俺は佐々木に言って、会社から出た。最後に見た佐々木の顔はまだ同じままだった。
会社を出ると、さっきまで雪が降っていたのに、いきなり雨が降ってきていた。しかも警報がでるんじゃないかと思えるぐらいの大雨だ。もちろん朝に家を出発したときは雨も雪も降らず、晴れだったので傘など持ってきていない。だがいつもなら、まじかよ、とかつぶやいてしばらく雨宿りをしているところだが、今日はそんな気分じゃなかった。なにもいうこともなく、俺は大雨の中、鞄を傘代わりにもせずにただ普通に歩いた。
家までは電車を使って、いくつか乗り継がなくてはならないのだが、今日は歩いて帰ることにした。このびしょぬれのまま電車に乗っても迷惑になるだけだろうしな。
そして俺はゆっくりでもなく早くもないスピードで歩いていた。雨が降っているだけで風はないので、別に歩くのに抵抗もなかったからだ。歩く途中、人がたまに俺のほうを見て笑ったり、不思議そうな顔をしていた。それもそうだ。大雨の中ただ呆然と歩いているのだからな。
そうやって歩いて数十分。
ドンッ!
俺の肩と誰かの肩があたった。その瞬間、俺は我に戻り、肩が当たった人のほうを向いた。
「お前。なに濡らしてんだよ」
その声は男の声だった。俺はその声におびえて顔を見ることができなかった。
「いや……濡らす気はなかったんですが。すいません!」
と、その瞬間。俺は服の襟元をつかまれ、カツアゲされた。
「すいません、で済むと思ってんの?」
俺はまたその声におびえて顔を見ることが出来ない。
「こっち見ろや!!」
男が強引に俺の顔を自分の顔のほうに向かせる。まさに、ヤクザといったような顔だった。怖い。
「本当にすいません!」
そんな謝罪もむなしく、男は俺を殴りつけてきた。何発も何発も……。
「次あってまた濡らしたりしたら殺すからな!」
そういって、男は最後につばを俺のほうに吐くと、歩いていってしまった。俺は無様にも地べたに寝転がっている。顔にはあざだらけで、節々が痛む。周りで見ていた人たちはこちらをいたいけな目で見てくる。心配そうに子供が見てきたが、同伴の親がこちらに向けていた子供の顔を戻して歩き去っていった。
しばらくの間その状態でいた。すると目の前に手が差し伸べられた。
「大丈夫か?」
手が伸びてきた方向を見ると、そこには俺と同じ年ぐらいの男性が立っていた。なんだ、女じゃないのか、なんてバカなことを考えながらコクリと俺は頷くと、男性の手を取った。
「あ、ありがとうございます……」
俺は礼を言うと、家に帰ろうと歩き出した。
「なぁ、本当に大丈夫か?なんなら送って行ってやろうか?」
その男性は優しかった。だがこんなびしょぬれの姿だし、送ってもらうのは申し訳ないと思い、俺は首を横に振った。
そして十歩も歩かないうちに……倒れた。
「お、おい!大丈夫か!?おい、聞こえるか!」
男性が必死に声をかける。その中俺の意識は朦朧としてきて、意識を失った。
花がいっぱい咲いていた。
空には今まで見たことないほどくっきりと映った虹がある。さっきまで降っていた大雨が止んだのだろうか。
それにしても虹なんて見たのは何年ぶりかな。いい香りがする……。
ゆっくりと目を開けると、そこには見たことない空が広がっていた。白い空、真っ白な……ってあれ?違う、これは空じゃなくて天井だ。でもうちの天井は茶色い木の天井のはず……。
俺は目を覚まし、完全に起きた。
見渡すと、そこは本当に俺の家ではなかった。俺の周りには花がいくつかあって、とてもよい香りを放っていた。向こうの部屋のほうからはいい臭いがする。するとその部屋のドアが開いた。
「お、起きたか」
そう聴いてきたのはさっき、かはわからないが、俺を助けてくれた男性だった。
「ほとんど一日寝てたな、あんた」
笑い混じりにいってくる。ほとんど一日?
俺は時計を見た。電子時計らしく、日付もちゃんと映っている。
十二月二日。
十二時三十九分。
昨日俺が帰っていた時刻はちょうど昼頃。そして昨日は十二月が始まったばかりの日だった。いわゆる十二月一日。
となれば、この男性の言うとおり俺は時間的に一日中寝ていたことになるだろう。
「あの、ここは何処ですか?」
そんな時刻や日にちより知りたいことはそれだった。
「ん?ここは俺の家だけど?」
通りで見たことないものがいっぱいあるはずだ。
「ま、とりあえず腹も減ってるだろ?これ食いなよ」
そういって男性はコーンスープを持ってきてくれた。ちゃんと台もつけて。
俺は遠慮なくそれを頂いた。かなり腹が減っていたのだ。昨日は朝食しか食っていないからな。しかもパン一枚。
「そういえば、あんた、名前は?」
俺はスープを冷ましながら食べるのを止めて答えた。
「俺……僕は雪村裕です」
それを聴くと男性は驚いたように目を見開いていた。
「あの、どうしたんですか?」
「あんた……ってか、ゆっくん!?」
なんでこの人が俺のあだ名を知ってるんだ?いや、今まで初対面の人でも、あだ名をつけるとならば“ゆっくん”と決まっているようになっていたが。
「俺だって!俺、望月拓也!」
……あ!思い出した。こいつはかつて声優になろうと三人で誓ったときの友達。“望月拓也”だ!極めて中学のときなんか先生に反抗してばかりだったから、内申点こそは悪いものの、学力、運動、共にできるほうだったやつだ。そのため、ギリギリで俺より上の高校へいって、その後どうしたかわからない。
「望月ぃ!?お前、本当に望月なのか!」
俺も望月同様、完全に驚いていた。何年ぶりだろうか。こいつと最後会ったのは中学の卒業式の日だ。
「おぉ!ゆっくん、久しぶりだな」
俺たちは抱き合った。なんだか内容を知らなかったらどこかのホモのように見えるぐらい熱い抱き合いだった。
「お前元気にしてたのか?」
望月が元気ハツラツに聞いてくる。もちろん元気だとも。昨日まではな……。
「どうしたんだ?」
いきなりテンションが下がった俺の顔をうかがう様にして聴いてくる。中学のときはもうちょいからかっていたのにな。今ではこんなに優しくなったのか、人間ってのは変わるもんなんだな。
「いや、昨日実は、リストラされちまったんだ」
「え?マジで。そりゃ残念だったな」
「ああ、本当だよ。って、お前は今何してんだ?」
そう聞くと望月は立ち上がってどこかに走っていってしまった。まさかAV男優とかになったんじゃないだろうな。中学のときにどれだけこいつがエロかったか。そういう俺もかなりエロかったが。男はエロなしでは生きていけないのさ。
「ジャジャーン!見てみろ!」
そういって俺の目の前に突き出してきたのは、なにやらゴチャゴチャと文字の書いてある、スケジュール表のようなものだった。更によく見ると、それは本当にスケジュール表で、それを見てると俺は手が震えていた。そこには別にAVについてのことが書いてあるわけじゃなかった。そこには、アニメの名前とそのキャラクターの名前がババッと並んでいるからだ。俺は声優に興味こそあるもの、エンドテロップに出てくる声優の名前なんかは大体見ていないことが多い。見るとしてそのエンディングテーマの曲名とかだろう。だからまったく気付かなかったが、こいつは念願の“声優”になっていた。
〜あとがき〜
ここまで読んでくれた人ありがとうございました。
やっとのこと自作小説ができた、と思いきや、まだ続きがあるような終わりかたになっているんですが、ソレもそのはず。続きがあるんです。
本当は一回だけで終わらせようと思っていたのですが、続いてしまいました。
もしもこの小説に対して意見などがあれば、
metal_dayschool@yahoo.co.jp
にメールしてもらいたいです。(笑)
なにか素人が本当の小説家のようなあとがきを書くって言う図に乗った行為をお許しください。
それでは、続きをなるべく楽しみにしていてください。(笑)
お前にしては続き楽しみかも